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ショートショート100本勝負


by landr40
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#66 ヨモとシロとブ―

ある小さな家庭に姉と妹と弟がいた。
みんなオカンは一緒だが オトンはそれぞれ別にいた。

整った顔立ちの気品あふれる妹。
頭は一番悪いが、真ん丸太った愛嬌ある弟。

それとひきかえ、姉には明らかに要らない血が混じっている。
キミは自分の醜さと、それが受け入れられない世間をきっと感じていたのだろう。
それゆえ姉が一歩でも家から出る事はなかった。

自分の居場所はここしかない。
姉は家では女王だった。

女王は一人しか存在しない。
そんな女王は、広い世界から帰ってきた妹や弟をよくいじめていた。

あなたたちには外がある でも私には内しかない。
20坪足らずの私の世界に笑顔で踏み込むことは許さない。

やがて弟がいなくなり、そして妹も旅立った。
姉の知らない世界に向けて、彼らは笑顔で旅立った。

妹や弟やオカンやオトンが走り回った世界はどんなだろう。
見上げても見上げてもまだ届かない空の先はどこにつながっているんだろうね。
テーブルの下の暗がりで姉は体を丸めていた。

END
# by landr40 | 2013-03-30 11:19 | ショートショート

#65 戦場の観覧車

作戦本部から下された無為な指令に僕は反発した。

!大事なモノを犠牲にできない、そして僕も犠牲にならない。
!例え反逆罪に問われようと 大切なものは守り抜きたい。
!それが敗北に結びつこうとも 卑劣な手段の勝利など望まない。

だから僕は心に決めた 信じるもののために闘おうと。

やがて同志が現れた。彼らは何度も折れそうになった僕の心を支えてくれた。
体制を覆すコミニュティ・・・それを僕たちは正義だと語り合った.

そして、機は熟した 僕は切り込み隊長となり体制に挑んだ。

鯨の胃袋はとてつもなく大きかった。僕はピノキオのようにその巨大さに圧倒されつつあった。
でも決して負ける気はしなかった なぜならば僕の心には正義があったから。

振りかざし続けた剣は 既に錆びつき朽ち果てていた。
けれども正義のコミュニティには援軍が現れなかった。

流し続けた血は排水と一緒になり緩やかに下水道を潜っていった。
もう僕は動けない 心臓を打ち抜かれた僕は動けない。
そんな僕をコミュニティが取り囲む。
僕には彼らがはるか上空の観覧車に乗っているように見えた。

今頃だから語れる本音 彼らは新たなコミュニティを求めて消える。

やがて僕は現実と夢物語を区別できなかった自分を知った。
その時には僕の心も体も、吹けば飛び散る塵と化していた。

END
# by landr40 | 2013-03-30 11:02 | ショートショート

♯64 レモンハイの女

ジョッキには、レモンハイがなみなみと注がれていた。
カウンター席に独り座る仲井未織は、目の前に置かれたジョッキの縁に口をつけると、肺活量だけで中身を吸い上げた。
氷とガラスの接触する心地よい音が静かな店内に響く。
そして、そのまま1/4ほどを飲み干すと、胸を反らせて一息ついた。
爽やかな檸檬の香りと粘つくようなアルコールの薫りが、一体となって彼女の食道に刺激を与えた。

仲井未織の前には、食べ散らかされた串が数本と、たった今注がれたばかりのジョッキがある。
やや年季の入ったカウンターにひじから体重を持たせかけると、微かにミシッと言う音がした。
仲井未織は、ジョッキを手に取ると、冷えたレモンハイを喉の奥に流し込んだ。

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# by landr40 | 2012-11-05 21:04 | ショートショート

♯63 蜘蛛の意図2 (全2回)

 楽しいわけではなかった。ただ、明らかにこの場では自分が主役であるという恍惚にも似た快感があった。

 そして、瞬く間に二時間が過ぎた。空はすっかり暗くなっていた。
 気付けば、小宮と工藤さん以外は誰もいなくなっていた。
「じゃあ、また来週、この時間に」
 工藤さんが仲井未織に言った。

 ただ、コーヒーを奢ってもらって、話をこの人に聞いてもらっていただけである。他のメンバーの素性も一切わからなかった。
 いったい、何のために自分がここにいたのかさえもわからない。ただ、何の変化もない大学での生活に、1つのアクセントがついた事だけは確かである。

 自分は、またここに来るのだろう、と思った。

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# by landr40 | 2012-08-25 10:03 | 中篇

♯63 蜘蛛の意図1 (全2回)

 青い空には、白い雲が浮かんでいた。
 それは、まるで空と言う巣に這う蜘蛛のようであった。
 純粋を色で表しているような白い雲と、邪悪を体現しているどす黒い蜘蛛。
 言葉だけで存在を重ねてしまう自分は、日本語の妙に囚われすぎているのだろう、と思った。
 araignéeとnuageならば、それは全く別のものなのに・・・。

 講義前の教室の窓際で、そんな事を一人ぼんやりと考えていた仲井未織に、ある女性が声をかけてきた。
「みんなで映画やビデオを見るサークルなんですよ。よければ、参加しませんか?」

 誠実さを絵に描いたようなこざっぱりとした見かけの女性は、そう言って仲井未織に微笑んだ。
 その表情には、愛くるしいえくぼがあった。

 カレッジライフが始まって3ヶ月が経過していた。
 サークルへの勧誘は今に始まった事ではない。
 ただ、それは入学直後に集中しており、この夏期休暇前の季節になっては、そのような声は全くと言っていいほどかかっていなかった。
 周りの人間は、皆、勧誘という蜘蛛の巣に絡め取られていたのだ。

 仲井未織が返事を渋っていると、その女性は彼女からこの後の講義の予定を聞き出して「じゃあ、待ってるから」と、その場を後にした。

 その女性の背中には、隠された手があと4本あるような気がした、

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# by landr40 | 2012-08-25 08:46 | 中篇