IE9ピン留め

#62 五希の部屋にようこそ

季節はほんのりと肌寒さが漂う秋から、本格的に身も凍える冬へと移行しつつあった。
氷粒を混ぜたような北風に対して、僕はコートの襟を立てて、人通りのない夜道を忙しく歩いていた。

歓楽街を抜けたところにある、お世辞にも立派とは言えないワンルームのマンション・・・そこが僕の目的地である菊地五希の住居である。
螺旋状の階段を3つばかり回転運動して、僕は待ち切れないように部屋の呼び鈴を押した。
ほどなくして、かちりと錠が外れる音がした。
そして、ドアの隙間から、痩せ型でもない、しかし決して肥えてはいないうら若き女性が顔を出した・・・僕の菊地五希である。
「久しぶり」
五希は目を細めると、僕を部屋へと招き入れた。

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インターネット広告の「トランスメディア」提供スキンアイコン # by landr40 | 2011-12-24 10:54 | ショートショート | Comments(0)

#61 ラーメンと言う名の同盟

 11時を回ると、にわかに社内の空気は今日の昼食談議に染まり始めてくる。
「お昼にラーメン食べに行こうよ!」
 ユウキは韓国企業からの受注書類をまとめながら、隣の席で報告書を作成している同僚のアンナに声をかけた
 その時、アンナの横顔を支配している肩レングスが微妙に動いた。
「なんかさー、駅前にできたラーメン屋、美味しいらしいよ、トンコツでさ」
 アンナの変化に気づかず、ユウキは明るく言葉を続ける。
「ねえ、付き合ってよ。今日のBランチは、またコロッケだもの、もういいよ、コロッケは」
「……」
 アンナは、頬骨を覆う黒のプラスチックフレームをなぞるように指でぬぐった。
 そして、返事を待つユウキを意に介さぬように、キーボードで何かを打ち込んだ。
 受注見積額が並んだ韓国語の報告書に、その言葉は意味もなく表示された。
『라면은 간장』 ※1
 その真意をユウキが知る由もない。

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インターネット広告の「トランスメディア」提供スキンアイコン # by landr40 | 2009-04-28 01:46 | ショートショート | Comments(0)

#60 朝の公園

 東の空が次第に白んで来る。
 冷酷で無残な夜の闇が、温和で歓喜に満ちた朝の光に染め上げられていく。
 カツミは、差し込む朝焼けに目を細めた。

 また、朝がやってきた、、、

 新調した黒いフォーマルドレスは、夜と言う空間に揉まれて、見る影をなくしている。このドレスが5万円もするなんて、誰が信じようか。今はもう、寒さとコンプレックスを凌ぐための布切れでしかない。
 肩まで伸びている自慢のストレートヘアーも、養分を失い、太陽を吸収できず、単なる人体の暗部としての存在でしかない。
 肌は荒れ、抜群に施されていたファンデーションも、地震後の大地のようにひび割れている。
 夜と言う低極に、あまりに無防備だった自分がここに居るのだ。

 夜は全てを奪い取っていく。昼に蓄積しておいた財産が、利子をつけて吸い取られていく。そして、朝には抱えた借金に呆然とする自分しかいない。

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インターネット広告の「トランスメディア」提供スキンアイコン # by landr40 | 2009-02-05 07:34 | ショートショート | Comments(0)

#59 サキとの再会

 高校1年生の頃、ボクは空手に夢中だった。テレビの格闘技番組の影響もあったが、とにかく、昨日よりも強く、今朝よりも強く、1分前より強くなっていく自分に陶酔していたとも言える。

 しかし、その年の夏休み。ボクは交通事故にあった。命には別状はなかったものの、右足の腱は、もう元通りにはならなかった。
 無念と言う言葉だけでは足りないくらいだった。尻の青い高校生の思う事ではないが、人生が真っ暗になった思いだった。

 結局、ボクは空手を断念できなかった。しかし、試合のできる足ではない事は重々承知していた。そんなボクのために、顧問の先生はマネージャーと言う役職を与えてくれた。キミの空手に賭ける思いを、他の部員に伝えてほしい、と。

 それは願ってもない事だった。試合はできないが、練習のパートナーやメニューの作成くらいならできる。ボクはマネージャー業に新しい人生の光明を見出したのだ。

 女子部員にサキと言う女の子がいた。その桁外れの実力は男性でも持て余すくらいのものがあった。彼女の的確な蹴りとスピードは男子部員の追随を許さないほどだったのだ。まさに才能の塊だった。

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インターネット広告の「トランスメディア」提供スキンアイコン # by landr40 | 2009-02-03 07:42 | ショートショート | Comments(0)

#58 カレー男爵

 トキコはイライラしていた。
 オーダーしたカレーライスの出来上がりを待つ間の焦燥感ほどもどかしいものはない。私は"今"カレーを食べたいのだ。5分後や10分後ではない、たった今である。

 今まさに、落ち着きを失おうとしていた時、ツンとカレールーの匂いが店内に漂い、愛想のいいおじさんマスターが、カレー皿を持ってトキコの前にやって来た。
 喫茶コートジュボワール特製カレー、500円のお値打ち品である。

 カレーの匂いがテーブルに充満して、トキコの顔を包む。待たされ続けただけに、この瞬間の陶酔はたまらないものがある。トキコはごはんとカレーからそれぞれミックスされて立ち上る湯気を、思いっきり鼻腔に吸い込んだ。

 お皿はカレー皿(深底楕円食器と言うべきか)である必要がある。
 左側には、粒が直立しそうな炊き上がりの熱々ごはん。もちろん、赤く染め上げられた福神漬けも欠かせない。
 そして右側には、ブラウン色をしたたっぷりのカレールー。ルーには、ジャガイモ、にんじん、肉のかけらが包まれるように形を見せている。

 これ。これなのよ!トキコは思わず心の中で叫んでいた。
 サラサラのまっ黄色なカレーとか、具も何もないディナー風カレーは、カレーライスの亜種である。このスタイルこそが、カレーの原点なのだ。


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インターネット広告の「トランスメディア」提供スキンアイコン # by landr40 | 2009-01-12 01:56 | ショートショート | Comments(0)

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